医療法人の出資金
医療法人制度は医療経営にメリットをもたらす反面、医療法人特有の制度が
大きなリスクとなる場合があります。
今回は過去にあった事例をふまえて、このことを考えてみたいと思います。
ある日、私が担当している医療法人の理事長から電話があり
「急な話なんだけど、理事の弟が辞める事になってね、彼は医療法人の出資金の一部を
持っているから払い戻しをしてほしいと言ってるんだ」と言われました。
どうやら兄弟の仲違いがこのような結果になってしまったようです。
私は「それでは払い戻しの金額を計算してみます」とお伝えすると、
理事長は「計算?彼の出資金は500万円だから、それだけ返せばいいんだろ?」との反応
医療法人では出資した社員が退職する際に、出資持ち分に応じて
財産の払い戻しを請求できる権利があり、順調な経営等により出資金の
払戻金額が高額になる場合があります。
今回のケースでも毎期黒字決算を重ねていた医療法人であったため、
500万円の出資金が数千万円という高額な評価結果になりました。
何とか支払う事はできましたが医院経営には大きな痛手となりました。
この医療法人の出資金は、父である先代の理事長が出資持分を
長男と次男に均等に分け与えたものでした。
ところが長男は理事長となり事業を承継しましたが、
次男は当該医療法人の役員であるものの、他の医療機関で勤務医をしていました。
先代の理事長は兄弟平等に財産を分け与えたかったと思われますが、
今回の仲違いで不公平が生じてしまいました。
◇ 事業承継者に集中を ◇
この教訓から、医療法人の出資金は事業を承継する方に集中させた方が
トラブル防止になると感じました。実際、親族間でも長年の間にどんな
争いが起こるかは想像できないものです。
ちなみに、平成19年4月以降に設立された医療法人は「持ち分の定めのない法人」
となっており今回の様な出資金の払戻し請求権はありません。
それ以前に設立された医療法人の理事長先生は財産分与を考える際に
出資金についてご注意下さい。
医療タイムス紙 2010.11.20 掲載
設計・工事依頼の注意点
先生方が「初めての診療所建築」を検討される際、何をすれば良いか、何から始めたら良いか等、なにかと戸惑う事が多いと思います。設計や建設工事を依頼する上でのポイントを幾つか挙げたいと思います。
まずは最初に計画する敷地の有効利用を検討しましょう。例えば、建物と駐車場や緊急車両の待機場所等との位置関係(ゾーニング)と、これらを結ぶ利用者・従業員・業者の方・そして先生方の経路(動線)を、敷地形状や周辺状況を考慮して決めます。これを間違えると、人や車等との動線が衝突してしまい危険な箇所が出来てしまうこともあります。敷地を効率的に利用し、スムーズな動線計画をする事がまず診療所建築の成功の第一歩です。
ラフな図面で何案かを設計士に作成させ比較検討をして見ましょう。
敷地レイアウトが決まったら、今度は建物の計画です。まずは設計士に対し医療方針を明確に伝えましょう。ここが一番重要です。聞き取った医療方針をいかに建物に具現化するかが設計士の腕の見せ所でもあります。まずは基本プランの打合せです。必要な部屋の数・面積や設備、導入を予定する医療機器について分かる範囲で伝えます。また雇用する従業者数も伝えておく事が必要です。この打合せを綿密に行う事により開業後の先生やスタッフさんの作業効率や患者さんの快適性がグンとアップします。
また、建築予算や開業スケジュールを明確に伝えます。伝えたニーズを予算内で出来る限り反映する様、工法や仕様を提案してもらいましょう。また設計や工事の工程表を作成してもらい、関係者の業務範囲と役割を明確にします。
最後に建物工事費以外に発生する費用についても把握しておきましょう。例えば上下水道の負担金。建築確認申請料・土地建物登記費用・建物火災保険料等々です。土地によっては地盤補強・埋設物の撤去や近隣対策費など予定外の費用がかかる場合もありますので注意しましょう。
2010年11月10日 医療タイムス紙掲載
医療法人は本当に得か?
今回はご相談の多い「医療法人化は本当に得か?」がテーマです。
医療法人化は個人診療所の節税対策として用いられる事が多く、いくら節税になるのか?というご相談を良く受けます。
例えば年間利益(所得)が約2,500万円のある個人診療所を医療法人にすると、
毎年896万円であった納税額が482万円(医療法人と個人の合算)となり毎年414万円という大きな節税効果が発生します。 しかし節税金額だけでなく注目していただきたいのは、キャッシュフロー、年間でどれだけのお金が手元に残るかです。
節税金額がそのまま手元に残ると考えがちですが、問題になるのが厚生年金の新たな負担。従業員5人未満の個人診療所では厚生年金の加入は選択できましたが、医療法人になると強制加入となります。スタッフだけでなく先生や奥様といった常勤役員も対象となりますので、今まで未加入であった診療所にとっては厚生年金の保険料は大きな支出となります。
この診療所では厚生年金に加入となった場合、年間248万円の診療所負担が新たに発生するため、節税金額414万円マイナス厚生年金負担248万円=166万円が手取額の増加ということになります。
◇ 節税以外に多くの利点 ◇
新たな診療所の負担が発生するものの厚生年金加入により従業員の福利厚生の充実や先生方の将来の備えになるという考え方もありますので、この点も加味して検討する必要があります。
医療法人制度はキャッシュフローを改善させる以外にも多くのメリットがありますので「早く法人化しておけばよかった・・・」ということにならないように個人診療所の先生には確定申告の度に検討をお勧めします。
医療タイムス紙 2010.11.1 掲載